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暗い地下室で病まないでください

救急外来に若い女の子が過呼吸で来ました。


彼女は島を高校卒業と同時に出て、大きな街で事務職員として働き始めました。

夜道で引ったくりにあってから、過呼吸発作が出現するようになり仕事も休みがちになり、数年前に島に帰って来ました。


現在、お母さんと2人で暮らしていて、少しずつお母さんの職場でお母さんの仕事の手伝いをするようになりました。
人前に出ると過呼吸発作が起きてしまうから、暗い地下室でなるべく人に会わないように、静かに仕事をしています。

この島には月に一回精神科の先生が来るから、色んな種類の眠剤と抗不安薬を処方してもらっているけど、今でも暗い夜道を一人で歩くと、とてつもなく不安な気持ちになります。

まだ、20代前半の彼女はいつまでこの生活を続けるのだろうか?


いつかその暗い地下室から出て、普通にオシャレして、笑いながら友達と過ごす日は来るのだろうか?

もし、あの時引ったくりにあっていなかったら彼女の人生は違ったのだろうか?
もし、もう少し治安の良い街にアパートを借りれたら引ったくりにあわなかっただろうか?
もし、お母さんがお父さんと離婚していなかったら違っただろうか?

、、、

しばらく救急外来で休んで、過呼吸が治った彼女は、また暗い地下室と家を往復する生活に戻って行きました。

彼女は生まれてこの方、何も悪いことなどしていませんが、様々な要因が今の彼女の人生を形成しています。

ちなみに、この彼女も、島も、実在しません。

しかし、色んな島や地域で似たような患者さんに出会います。ひと時の傾聴と抗不安薬を処方するだけの自分に無力感を感じない医師はいないはずです。

離島や田舎に生まれたから不健康になる、良い職業に就けない、良い暮らしが出来ない。そんな時代は僕らの時代で終わらせなければいけません。

ITのおかげで世界のどこにいても、世界中の授業をスマホで受けれて、クリックひとつで欲しいものが明日にはネットで届くのです。

離島だろうが、田舎だろうが、僕らは何にでもなれる。何でもできるはずです。

そして、僕たち医療者は、患者さんの病気になった『原因の原因』を知ろう。そして、何かしよう。

北欧にはこんな言葉があります。

『何かやろう。もっとやろう。もっとうまくやろう。』

そして、そんな病気になっても幸せな社会を作るのは、僕ら医療者だけでは当然不十分です。

市民の一人一人が隣の人に、『社会的処方箋』を渡して行くそんな世界は素晴らしくないですか?

社会的処方 西 智弘先生

『原因の原因』は何でしょうか?元世界医師会長のマーモット先生は医師人生をかけて、証明し、言葉で、数字で表現しました。

健康格差 マイケル・マーモット先生

僕らにも、何かできることがあるはずです。

『何かやろう。もっとやろう。もっとうまくやろう。』

井戸の柄

あけましておめでとうございます!!

五島列島からオーストラリア、ノルウェーそして鹿児島に戻って来て、産婦人科を始めて、、あっと言う間に2019年が終わってしまいました。

2020年は今まで吸収したことを社会に還元出来たらと思っている所存です!!

さてさて、新年早々皆さん風邪とかインフルエンザにかかってないですか?

体重が増えたり、血圧がいつもより上がってないですか?

職場が変わってから風邪を引きやすくなってないですか?

そういえば、この前友達のA君が下痢していたな。

その前はB君が同じような下痢をしていたな。

1週間前は担任の先生も下痢をしていたな。

え、これって感染症??パンデミック??

大変!!A君を監禁しなくちゃ!!

ちょっと待って!!

ジョン・スノー

A君、B君、先生、他の同じ症状が出た人たちの家をこの地図で埋めてこう。

どうやら、この井戸の周囲の人だけが下痢になっているみたいだな。

ふー、捜査疲れましたね。

ちょっと休憩。

え、イタタタ。

この井戸じゃん!原因!!

ってのをロンドンでコレラが大流行した時に発見したのが医師であるジョン・スノーで、この井戸の柄を取り外した途端に死者は急速に減少し、コレラの大流行は終息を迎えました。

この学問を疫学、そして公衆衛生と言います。

前置きが長くなりましたが、現在小徳は産婦人科医として子宮頸がんの検診をしたり、子宮頸がんの手術を行っています。

毎年『日本』でも約1万人が子宮頸がんのせいで子宮を失い、約3000人が命を失っています。

村中先生の激しくも冷静な偏見との戦い

子宮頸がんはHPVワクチンでほとんどが予防できる病気です。

それでも、HPVワクチンに関するネガティブな報道により日本の接種率は現在1%をきっています。

http://kanagawacc.jp/vaccine-jp/123/

また、産婦人科への敷居の高さなどから検診の受診率も依然低いままです。

僕たち医師、産婦人科医は病院で、子宮頸がんと診断された人達をただ待って、手術するだけで良いのでしょうか?

スノー先生が井戸のポンプの柄を取ったようなことがどうすればできるでしょうか?

川の流れにたとえると、川に溺れている人を助けるために医師が自分を鍛える(3次予防)のも大事ですけど、そもそも、その溺れている人は泳ぎ方を知っていたのか?どうして川に溺れてしまったのか?(2次予防)上流で柵や橋をかけれなかったのか(1次予防)?

もしくは、川の近くで「危ないよ」と声をかけ合う人と人のつながりの豊かな街づくりをする(0次予防)のが大事なんでしょうか。

今年は少しずつ病院の外での活動もできますように。