モルグ街の2つの小事件
みなさんお久しぶりです!お元気ですか?
あっという間に桜は散って、気づいたら夏の音がどこそこで聞こえて来るようになりましたね。
小徳は3月で婦人科研修を一旦終えて、4月から待望の産科研修がはじまりました!
まだ1ヶ月も経ってないですが、お産の取れる総合診療医の道のりは遠いです!!
相変わらず怒られながらも楽しく、一歩ずつ成長しています。
お産と一緒で、何事も「恐れず、焦らず、侮らず」ですね。
分析的なものとして論じられている精神の諸作用は、実は、ほとんどが分析を許さぬものなのである。ただ結果から見て、それらを感知するにすぎない。
エドガー・アランポー
エドガー・アランポーの推理小説「モルグ街の殺人事件」の中で、凶悪な殺人事件が起きた裏側にある小さな事件を紹介しよう。
モルグ街に住む産婦人科医のラカンはお財布を無くしてしまい困っていた。
無くす直前に妻からもらったなけなしのお小遣いと保険証が入っていて、彼は必死に探したが1週間経っても出てこなかった。
お財布の形は名刺入れより薄く、お尻がもともとプリッとしたラカンは「このお財布ならお尻のポケットに入れてもお尻が大きく見えないから良いんだよ!」と友達に自慢げに話していた。
ラカンは全く手がかりも見つからずに途方にくれていた。
お財布を無くして1週間経ったある朝、ラカンは急いでいた。初産婦さんの分娩が朝からあるのだ。
朝ごはんを急いで食べ、仕事着に着替えたラカンは排便をし、いざ流そうとトイレのレバーを下ろした。
しかし、ラカンの排泄物は流れるどころか、水かさが増した便器の中を、テッシュと共に回り続けた。あたかも、茶色いタキシードを着た紳士と白いドレスを着た貴婦人が舞踏会で踊っているようであった。
ラカンは頭の中が真っ白になり、しばらくその舞踏会に見惚れていた。
小一時間して我に帰ったラカンは、12時を迎えたシンデレラの様に急いで、華やかな舞踏会場を後にした。
その夜、大家さんがラバーカップや回転式ワイヤーを利用して、詰まりの解消を試みたが、その舞踏会の音楽が止むことはなかった。
翌日、6万円かけてトイレの修理専門業者に便器を外して、便器の奥に詰まっていたモノを取っていただいた。
そう、皆さんもお気づきの通りラカンの財布が詰まっていたのだ。
実は同時期に、ラカンの家のトイレの流れが悪かったり、朝にトイレから下水の臭いが上がって来るという小事件が起きていたがラカンは自分の財布がその原因だと夢にも思わなかったのだ。
そして、今回の大事件になったのだ。
ラカンの「失われた財布」と「流れなくなった便器」。一見、繋がらないように見えた2つの事件は、下水道という一本の大きな管で繋がっていたのだ。
そこにたどり着くまでには詳細な問診と、「小さな事件」のサインを見過ごさないことが大事だ。
今のラカンはトイレの流れが悪かったり、下水の臭いがする便器をみたら何かが詰まっていることはすぐにわかる様になった。
もっと早くに介入出来ていれば、6万円の損失を免れたかもしれない。
物事の裏側には、常に一つ以上の別の世界が並行して走っていると思って良い。
見えない世界を見ようとする日々のたゆまない努力と感性を磨き続けよう。